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第54回 好きな浮世絵を見つけよう

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 江戸時代から明治にかけて、庶民の文化として花開いた浮世絵。それまで上流階級のものだった絵画が、版画の普及で、かけそば1杯の値段で買えるようになったのです。庶民は柱やふすまに貼ったり、ブロマイドのように大事に持ちました。今は「浮世絵は展覧会で鑑賞するもの」と敷居が高い人も多いと思いますが、ちょっとした知識を得ると、身近に感じられます。

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鈴木春信「水仙花」明和5年(1768)頃 太田記念美術館所蔵

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東洲斎写楽「初代市川鰕蔵の竹村定之進」寛政6年(1794) 太田記念美術館所蔵

流行をいかに捉えるか

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渡邉さんが好きな一枚。現在の三井本館あたりにあった呉服店・三井越後屋の賑わいが伝わる=歌川広重「名所江戸百景 する賀てふ」 安政3年(1856) 太田記念美術館所蔵

 動物園、大江戸クルージング、妖怪、江戸の女装と男装……。これは原宿にある都内随一の浮世絵専門美術館、太田記念美術館の今年度の展覧会の展示テーマの一部です。浮世絵は光に弱く、展示期間は最大1カ月。そのため、同館では毎月テーマを設定し、約1万4千点の所蔵品を中心に、テーマに沿った浮世絵を選りすぐって展示しています。このテーマ設定が学芸員の腕の見せどころ。「動物、妖怪は、お子さんも見にきたくなるもの。大江戸クルージングは、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた東京の舟運事業から。女装と男装はLGBTを意識しました」(同館主幹学芸員の渡邉晃さん)。他に、葛飾北斎や学術的観点の展覧会もありますが、世相をとらえ、人々のニーズを考えるという点は浮世絵も同じです。

 遊郭、歌舞伎役者、年中行事、風景……とあらゆる風俗を描いた浮世絵は、庶民が見たいものを版元が考え、絵師に絵を依頼しました。出版社の役割を担ったのが版元、版下絵を描く絵師、版木を彫る彫師、それに絵具を着けて摺る摺師。浮世絵はこの4者による共同作業です。色ごとに版を彫って摺りを重ねる多色摺りは錦絵とも呼ばれました。有名な版元は、蔦屋重三郎。歌麿や写楽などを発掘し、優れた企画力でヒットを飛ばしました。

 300年を誇る浮世絵の歴史の中で、人気絵師もたくさん生まれました。錦絵創始期の第一人者、鈴木春信。生き生きとした現実感ある美人像を生み出した鳥居清長。稀代の天才絵師・喜多川歌麿。役者の顔を大きく捉えた「大首絵」で一世を風靡した謎の絵師、東洲斎写楽。『富嶽三十六景』が有名な酔狂の絵師・葛飾北斎。『東海道五十三次』など風景画の第一人者、歌川広重。この6人が六大浮世絵師です。片や一枚描いて、売れずに終わった絵師も少なくありません。浮世絵の通史が分かる本を1冊読むと、浮世絵のジャンルや変遷、絵師の系譜など流れがつかめ、絵師たちの人間像も浮かび上がります。

おもちゃ芳藤

 浮世絵には様々なジャンルがあります。その一つ「おもちゃ絵」は、美人画や役者絵に比べて知られていませんが、子どもが遊ぶための浮世絵です。切ったり貼ったりもされたので、失われやすいものでした。多くは若手絵師が手がけました。
 「『おもちゃ芳藤』と呼ばれた絵師(歌川芳藤)は、おもちゃ絵で開花しました。芳藤の作品はたくさん残っていて、晩年までおもちゃ絵に取り組んだことが分かります。おもちゃ絵のトップランナーとして、このジャンルを貫き通したのでしょう」と、町田市立国際版画美術館学芸員の村瀬可奈さんは語っています。持ち味を磨くことで、独自の世界を確立した芳藤の生きざままでも見えてくるようです。

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歌川芳藤「しん板猫のたわむれ 踊のをさらゐ」明治初期頃 太田記念美術館所蔵

江戸と明治の特徴

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村瀬さんが好きな一枚。江戸浮世絵の技術を継承しながら、明治時代の新しい女性像も取り込んでいる=揚洲周延「真美人 十四」、明治30年(1897) 町田市立国際版画美術館所蔵

 村瀬さんに、浮世絵鑑賞のコツを尋ねました。「和紙の質感を想像します。また、いろいろな浮世絵を見ると、自分の好きな時代が分かります」。浮世絵は、もともと庶民が手にしたB4サイズ程度の和紙です。その質感を想像することで、彫師や摺師の仕事ぶりにも思いを馳せることができると言います。
 江戸時代と明治時代の浮世絵の違いについて、太田記念美術館の渡邉さんは「明治時代の浮世絵は西洋画の影響も受け、江戸時代の平面的な表現に比べ、人物のデッサンや陰影表現がリアルになりました。構図も斬新です。また、舶来絵具により、色も鮮やかになりました」。文明開化の影響を受けると、庶民の側に立つという反体制の精神が失われ、浮世絵は存続の危機を迎えます。そんな中、小林清親や月岡芳年などは最期の華として、優れた作品を残しました。

 
 ジャンルの広さ、絵の面白み、構図の斬新さに加え、絵師を始めとする人々のドラマ――。浮世絵には全てが詰まっていて、一言で言えば「度量が広い」。好きな一枚や、お気に入りの絵師を見つけると、浮世絵の魅力に引き込まれているでしょう。

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小林清親「開化之東京」明治10~15年(1877~82)頃 太田記念美術館所蔵

更新日:2017年10月13日

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