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第55回 生活を豊かに――工芸品の魅力

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 器、着物、置き物といった工芸品はアートであると同時に、実際の生活でも使われています。この点が絵や彫刻と大きく異なります。伝統工芸品に代表されるように、日本は外国に比べ、「愛でる」要素が強いのが特徴です。そんな工芸品の鑑賞の楽しみ方を、2つの美術館で探りました。

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大谷石のホールが広がる日本民藝館

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明治時代の官庁建築、東京国立近代美術館工芸館

工芸品に出会う喜び

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朝鮮の手鏡

 「初めてなのに懐かしい」。日本民藝館を訪ねると、小学生もそう口にするそうです。引き戸を開けると、木の階段が飛び込んできます。スリッパに履き替え、ホールに踏み入れると、足元はひんやり。大谷石の床が広がります。ごつごつした感覚は、すぐに足になじみます。まるで田舎のおばあちゃん家に来たような雰囲気です。
 日本民藝館は、柳宗悦(1889~1961)が80年前に建てました。朝鮮時代の白磁に魅せられて、下手物と呼ばれていた工芸品の美しさに気づいた柳は、「民藝」と名付け、国内外から民藝を収集します。朝鮮時代の白磁、瀬戸の焼き物、角館の樺細工、岩手の南部鉄器、沖縄の染め物〝紅型(びんがた)〟……。作者は分からなくとも、その土地の風土と人々の生活から生まれたものばかりです。障子越しにやわらかい光が差し込む中、木製の展示ケースには、国内だけでなく、朝鮮や英国、スペインの工芸品が置かれています。
 展示のキャプションは、黒い板に朱書きで「白磁染付 小品類」など最小限。説明がない分、じっくり対峙できます。一つひとつを眺めると、不思議と心魅かれる工芸品が出てきます。紅色が印象的な朝鮮の手鏡や、帆船を描いた絵皿……。芸術的価値は分からなくとも、心が揺さぶられる時間は、ささやかな喜びが満ちてきます。

毎日、「初めて」見る

 「まさに『今見ヨ イツ見るモ』です」。工芸品の楽しみ方について、学芸員の古屋真弓さんに聞いたところ、柳の有名な言葉が返ってきました。
 「どうしたら美しいものが見えるか」と聞かれた柳は、「(いつ見ても)初めて『今見る』想いで見る」と答えたそうです。
 毎日、民藝館で工芸品と向き合う古屋さんも、昨日は気付かなかった発見があると言います。古屋さんは、さらに素敵なことを教えてくれました。「民藝館で日々起こることは、人と人との関係にもあてはまるかもしれません。毎日会う人でも先入観を捨てると、気付かなかった一面が見えるのでは?」

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ショップには全国の工芸品が並ぶ

柳家では雰囲気を味わう

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西館表門は重要文化財

 道路を隔てた西館は、柳と兼子夫人と3人の息子、お手伝いや書生さんも住んでいた二階建ての家です(※公開日限定)。国内外へ民藝の収集と普及に出掛けた柳に代わって家を守った兼子夫人は声楽家として活躍、家計面でも柳家を支えました。いわば共働き夫婦の先駆けです。家族が集った食堂や兼子夫人の音楽堂、柳の書斎、子どもたちの和室などが見られます。当時はさぞにぎやかだったことでしょう。木製の窓枠にはめられた昭和のレトロガラスなど、細部の凝った意匠も見どころです。

季節感を取り入れる

 レンガ造りのクラッシックな東京国立近代美術館工芸館は、皇居のお堀沿い、北の丸公園の一角にあります。もともと陸軍の旧近衛師団司令部庁舎でした。明治時代の貴重な官庁建築として、重要文化財に指定されています。
 年間を通して行われる企画展と収蔵作品展は「日本ならではの季節感を大事にしています」と学芸員の諸山正則さん。例えば秋から冬にかけての展覧会で、着物を展示する場合、着物の柄を冬に向かう竹笹から残雪がかかった笹にするなど、展示替えにも季節感を取り入れています。日本人の生活がそうだからです。
 また、日本には、ハレの日やお客さんが見える日に特別な器を使ったり、生け花の器を変える風習があります。「日本には工芸に対して上等な扱い方があるんです」(諸山さん)。
 同館では工芸品を実際に触って、ガイドスタッフと対話しながら作品に親しむ「タッチ&トーク」も行っています。5人以上のグループには、英語ガイドもします(いずれも1カ月前までにメール、電話等で相談)。
 日本の工芸を見た外国人観光客からは、買いたいという要望も多いそうです。都内では、「伝統工芸青山スクエア」や百貨店などで求めることができます。
 

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 便利で機能的な暮らしが主流になり、季節感ある暮らしも減ってきました。だからこそ、工芸の美術館で感じることが、日常生活を見直すきっかけにもなるかもしれません。既製品ではない手作りのカップで一杯のコーヒーを飲むひととき――。心の余裕はきっと生活を豊かにしてくれます。

※日本民藝館西館の公開日=展覧会開催中の第2水曜、第2土曜、第3水曜、第3土曜

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外観と階段ホールが重要文化財=東京国立近代美術館工芸館

更新日:2017年11月13日

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